Cina 株式会社シーナ
「あきらめない介護」、「明るい老後」、「望まれる給食」で
高齢化社会をサポートする株式会社シーナです。
事例紹介 事例紹介
  • 2020.02.26
  • たかが声かけ されど声かけ

  • 翔月庵 神戸大開
  • 皆さんはこれまでの人生の中でいったいどれぐらいの声かけをしてもらったでしょうか?

    生まれたときの両親からの喜びの言葉、祖父母からの祝福の言葉、幼稚園保育園へ入園時のおめでとう、小学校の先生からのおはよう、友達とのバイバイ、はたまたお叱りの言葉を受けることもあったでしょう。心に響く言葉、怒りを覚える言葉、悲しい言葉、それぞれは全て人の声で人の言葉で自分の中にダイレクトに入ってきます。耳をふさがない限り生活圏の中に常に存在しています。知らず知らずのうちに少なからず影響を受けています。そんな中で私たちは今、介護に携わる人間としてあらゆる高齢者へ常日頃いろんな声かけを行っています。声かけをなくしては介護として成り立たないといっても過言ではありません。私たちが普段どんな声の掛け方をしているのか、声の高低、話すスピード、言葉の内容、これらを意識しての声かけは当然のことです。当たり前のことをしているだけでは人の心には届かず響くこともありません。

    翔月庵の入居者様に声かけについてお尋ねしてみると

    ・いきなりの大きなかけ声は怖い

    ・ぼそぼそしゃべられても何言うてるのかさっぱりわからん

    ・顔が怖い

    ・笑顔で話す人にはなんでも聞いてもらえそう

    ・やさしく声をかけてほしい

    ・いつでも声をかけてもらえると安心する

    ・できないことでも励ましてもらえると頑張れる気がする

    いくつか結果を挙げてみましたが キーワードはやさしさ・笑顔・励まし・安心感、誰に聞いてもそうでしょう。私も同じことを思います。介護に携わる人間として声かけの重要性は皆さん重々ご承知だと思います。

    では声かけの効果としてはどうでしょうか?

    大開にお住まいのある入所者様ですが、右片麻痺にて起き上がりや立位保持などが不自由で入所当時は昼夜問わずコールが頻回で介助もとても困難でした。一人ではなかなか起きあがれずもちろんトイレにも一人では行けず、ご本人もイライラしたり悲しんだり落ち込んだり負のオーラ満載に背負いこんだ方でした。そんなご本人のご要望で毎晩湿布を10枚体のあちこちに貼るのですが、ある時夜中にコールが鳴り居室へ伺うと胸が苦しいとの訴えがあり、家族様と病院へ行かれたことが二回ありました。その二回とも私が夜勤中の出来事でした。結果は少し不整脈が見られるが今のところ特に問題はないでしょうとのことでほっとしましたが、後日ご本人がまた苦しくなったらどうしようととても不安そうにされていたので、バイタルチェック行い正常であることをお伝えしてゆっくり休まれるよう睡眠を促したりしていたのですが、ふとご本人が「明日は体力使うデイやねん」と言われました。

    そこで毎晩10枚の湿布は身体への負担も大きいこと、湿布といえどもロキソニンも含まれ、痛み止めの作用も大きいことなどお伝えしたところ、それなら枚数減らしたいとのことで半分の四枚だけ貼ることになりました。そして、この方はもともと夜用の大きなパッドを使用されているのですが夜中に3~4回トイレ介助のコールがあったので大きなパッドなので朝まで安心であることを説明してその分ゆっくり睡眠をとって頂く事を優先しましょうかと提案しました。

    明日のデイの為にも体力温存しておきましょうと声かけをしたところ、夜中のコールも鳴らず巡回時にはぐっすり眠っておられ、翌朝訪室するとにこやかに「ここに来てからはじめてゆっくり寝られた!湿布貼らないほうが身体が楽やわ!」と言って下さいました。それ以降湿布10枚も夜中のコールもなくなり朝までぐっすり睡眠がとれているようです。この方の夢は自分でトイレへ行けるようになることだそうです。

    今はPトイレを使用されていますが端座位からのPトイレへの移乗も一切介助なしで声かけに応じて足を動かして自力でできるようになりました。

    左足一歩うしろへ 右足一歩前へ 立つ時にもかかとを引いていち・にの・さん!

    膝伸ばして 腰伸ばして 重心前に この三つの掛け声でぐーんと身体が伸びます。

    ひとりでトイレへ!の夢を絶対叶えましょうねという励ましの声かけは特にお気に入りだそうです。「がんばる」と言いながらよく泣いておられます。うれし泣きだそうです。

    入居者様への声かけはものすごいパワーとなって日々の生活の活力に成りうるものだと感じました。

    このように 介護が必要な方ががんばってくださると私たち介護者の負担も軽減に繋がります。例えば同じ様なことを無言で行ったとしたらどうでしょう?指差しやジェスチャーだけで伝える事ができたとしても決して良い効果には繋がることはないでしょう。それどころかとても不快感を与えて不穏をあおる結果になることでしょう。どんなに忙しくても居室の前で深呼吸ひとつでもできる余裕を持って笑顔で自分の口からやさしさ 安心を感じてもらえる声かけを心がけてみませんか?

    と問いかけてみたところでこれぐらいは介護士として皆さんが実践していることと思います。

    では、会社員、職員同士、あるいは上司から部下へ、部下から上司へまたは友人同士、親子で、兄弟姉妹での場合はどうですか?

    やつあたり、理不尽な怒り、押し付け、機嫌が悪いとあいさつもしない、無視する、自分の間違いをなすりつける、嫌なワードオンパレードですがもしも思い当たる人がおられましたらご自身の人生の中でとても心地の良い声かけをしてもらったときのことを思い出してみて下さい。その時はきっと前向きに、幸せに、そしてなによりもっとがんばろうという活力を与えてもらったことでしょう。

    自分が嫌な言葉を発しようとしたときにはどうか一歩踏みとどまって深呼吸ひとつするつもりでワードを声かけに変換してみて下さい。短い声かけだけで人間関係の基盤を作ることができます。忙しくて時間が足りない中でも簡単にできるコミュニケーションとして「声かけ」があります。

    海外でも「クイック・インフォーマル・チャット」と呼ばれ声かけが職場での短い会話として人間関係を築くうえで重要なおかつインフォーマル=非公式・私的なことのほうが効果的であるとされています。

    業務をスムーズに問題なく進めていくには人と人とのやりとりなくしては成り立ちません。指導するときもやむを得なく叱らなければならないときも普段からの声かけで人間関係の基盤ができていれば叱る方も叱られる方も冷静に受け止めることができるでしょう。

    たかが声かけ、されど声かけ、私は介護に携わってから初めて声かけという言葉を意識し始めたのですが、今回声かけを題材として事例も盛り込み発表させて頂くと決めてから人として生きる限り介護士としてだけでなくいろんな場面での声かけの重要性を再認識できました。このことをぜひ翔月庵の皆にも伝え、そして共有してきたいと強く感じました。

    介護士である前に一人の人間であり、一人の人間として介護士という職業を選び、職場としてのご縁があって翔月庵の一社員として今この場に立たせて頂いたことに深く感謝致します。ありがとうございました。